『厭犬伝』弘也英明

厭犬伝

厭犬伝

戦うことで、俺たちは成長していく――美青年と少女、そしてその分身たちが決闘、また決闘!

魑魅魍魎が跳梁跋扈する妖しげな異世界。ここでは人間の骸から生えた「汚木」から、操り人形の「仏」を作る風習がある。主人公の厭太郎は、ひょんなことから仏師の娘・犬千代と、命を懸けてお互いの仏同士を決闘させるはめに。格闘ゲームの狂気と民俗学的世界観を見事に融合させた、25歳の俊英が贈る傑作☆新種ファンタジー

 第19回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作品として今作は出たわけですが、表紙、あらすじと見る限りライトノベルを彷彿とさせますし、実際の内容もそんな印象を受けました。
話の筋であろう仏同士を戦わせる合(あわせ)の描写には執拗さや勢いみたいなものはなく、異世界の設定にしても合以外の世界が見えてこない。確かに平安風の世界観に格ゲーを持ってくるアイディアは良かったと思いますが、それが掘り下げられていないのは非常にもったいない。その上で『後宮小説』みたいな後の歴史的観点を最後に持って来られても読んでて困る。そもそも美少年と美少女を出せばいいってもんじゃない。あと厭太郎に情け容赦ない上司の伯父が本当は優しさの裏返しの行動だったとか実に安っぽい。

 どうも日本ファンタジーノベル大賞は『金春屋ゴメス』以降、急激に間違った方向へ行こうといるようで心配になってきます。以前なら優秀賞にさえ入らなかったような作品が大賞を得ている状況が、応募されてくる作品の質が全体的に落ちてしまったのか、最終選考に上ってくる段階で外されてしまっているのか、もしくはもっと違う理由からなのかわからないですが、以前のようにいろんなものを読ませてくれる賞に戻ってほしいですね。   (四根)